石破首相、コメ増産政策を推進
概要
2025年8月、石破茂首相は記者会見にて、国内のコメ価格の高騰に対応するため、「増産政策」を本格的に推進する方針を表明した。これにより、長年にわたり維持されてきた「生産調整(減反政策)」が事実上の転換点を迎える。
同時に、政府は環境保全型の農業支援策を強化し、脱炭素・減農薬といった要素を取り入れた持続可能な増産体制を構築することで、農家の参加と意欲向上を図る。さらに、余剰分の輸出強化を並行して進めることで、需給バランスの安定を目指すとした。
背景と政策転換の理由
コメ価格は2025年に入り、天候不順・農地減少・流通コスト上昇などを背景に高騰傾向にある。農林水産省によれば、2025年7月時点の**コメ10kg当たりの平均小売価格は前年比+18.2%**となっており、家庭・外食産業双方で影響が広がっている。
従来の生産調整政策(1970年代導入)は、米余りを抑える目的で農家に減反を促し、補助金を通じて価格維持を図ってきたが、消費減少・人口減少の中で制度疲労が顕在化していた。
石破首相は、「国民生活を守るため、いま必要なのは“農業の再起動”だ」と述べ、需給を価格操作ではなく供給力の強化でバランスさせる路線への転換を明確に打ち出した。
政府の具体的施策と方向性
今回の政策転換に伴い、政府は以下の施策を柱として提示している:
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生産調整の廃止・縮小:指定面積制や交付金による生産制限を段階的に解除
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環境配慮型農業支援の強化:有機栽培・水田多面的機能への補助金増額
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農業用ドローン・自動化機械の導入支援:省力化による生産効率の向上
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若手就農者・企業農業参入の促進:設備投資減税、農地取得要件の緩和
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米輸出ルートの強化:アジア市場・中東市場への専用ブランド米の展開
これにより、国内市場を基盤としつつも輸出による価格支持の仕組みを構築し、「余剰米=在庫負担」という構図から脱却することを目指す。
農業関係者・消費者の反応
農業団体や自治体からは、おおむね歓迎の声が上がっている。全国農業協同組合中央会(JA全中)は「持続可能な農業への転換は不可避」としつつも、「急激な制度変更が中小農家に負担をかけないよう配慮が必要」と述べた。
一方、消費者団体の一部からは、「生産量が増えても流通・価格転嫁構造が改善されなければ意味がない」との指摘もあり、政策の実効性には慎重な目も向けられている。
特に都市部では、価格上昇が既に外食価格やコンビニ弁当の値上げにつながっており、「増産=即値下げ」という単純構造ではないことへの理解が求められている。
過去の農業政策との比較と課題
減反政策の転換は、農業政策史において重要な転機となる。1970年代から続いた生産抑制政策は、日本の農業構造を「小規模・高価格・高補助金依存型」へと固定化した一因とも言われている。
今回の方針は、それを打破し、「生産性向上」「国際競争力」「環境との両立」を図る試みであるが、以下のような課題も残る:
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販路・需要創出の裏付け:生産増加に見合う輸出・国内需要の確保が不可欠
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中山間地域での対応難易度:インフラ・人手不足・高齢化地域への技術導入コスト
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他作物とのバランス問題:麦・大豆などへの転作推奨と矛盾しないか
これらへの対応がなければ、結果的に「一部の大規模農家だけが利益を得る」構造になりかねず、制度設計と執行の両面での精密さが求められる。
私の感想と考え
石破政権によるコメ増産政策は、戦後日本の農政において数少ない「構造的な大転換」の一つになる可能性がある。
私はこの動きを評価しつつも、単純に「作れば安くなる」といった構図ではなく、“いかに作り、どう売り、どこに届けるか”までを包括したビジョンの実装が鍵になると考えている。
生産調整政策は一面では「制度疲労」を起こしていたが、同時に多くの農家の“経済的なセーフティネット”でもあった。それを取り払う以上、新しい制度設計には、より透明性・公平性・将来見通しの提示が求められる。
特に注目すべきは、「環境配慮型農業」という文脈を、単なる“お題目”ではなく補助金政策の軸に組み込んだ点である。これは世界の潮流とも合致しており、日本農業が国際競争の中で“高付加価値型”として立ち回る可能性を生み出す。脱炭素・減農薬・水田生態系保全といった要素が現場で成果として現れるならば、日本農業の信頼性・ブランド力は確実に向上するだろう。
私は、今回の政策は「食料安全保障」だけでなく、「日本の農村の再構築」でもあると捉えている。人口減少・高齢化という逆風の中で、それでも“食べ物を自分たちで作る”という当たり前を未来に残す挑戦である。実現には困難が伴うだろうが、ぜひ中長期的視点で国民全体が関与すべきテーマだと強く感じた。
【引用元】
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首相官邸発表資料「食料価格安定に向けたコメ政策の見直しについて」
https://www.kantei.go.jp/jp/ishiba/policy/20250805_ricepolicy.html -
農林水産省「2025年コメ需給動向・価格レポート」
https://www.maff.go.jp/j/seisan/kikaku/rice/2025report.html -
日本農業新聞「石破政権、減反見直しと増産推進策を発表」
https://www.agrinews.co.jp/news/index/20250805_01.html